016 ある地方の風景 2007年1月
九州産業大学商学部 専任講師 後藤孝夫

 「ある地方」と、もったいぶって書き始めたものの、何のことはない、私の育った故郷のことである。私の故郷は、広島県東南部に位置する市であり、人口は4万人たらずで、以前は婚礼家具製作が盛んな土地であった。しかし、海外で製造された安価な家具におされて、家具業界は衰退し、今では広島県でも有数の過疎の市となった。

 そのため、帰郷するたびに、故郷がどんどん寂れていく様を肌で感じることができる。

 たとえば、市の中心地がいわゆる「シャッター通り」となったり、路線バスを運営していた企業が隣県のバス会社に経営再建を託したり、市唯一の単線鉄道は常に廃止の危機にさらされたりしている。また、市の財政状況は依存財源が50%を超え、現在の公共サービスを維持するためには、交付金・補助金に頼らざるをえない。

 そんななか、地域住民の足といえば、公共交通がうまく機能していない以上、どうしても自動車が頼りとなる。ルーラル地域の交通に関する研究でよく指摘されているように、わが市でも自動車の保有は、「一家に一台」ではなく、「一人一台」という状況である。

 ただ、このような交通手段の現況に加えて、わが故郷は高齢化率(65歳以上人口が総人口に占める割合)が現在27%を超えており、今後10年間で35%を超えるとの指摘もある。さらに、今後高齢となる世代の子世代は、故郷を遠く離れて別居しているケースが多い。

 このような交通手段の現状と高齢化の加速は、将来わが市に何をもたらすのであろうか。考えられる状況の1つが、買い物や通院など、生活を維持する必要性から自動車を運転する高齢者ドライバーの増加である。また、歩行者や自転車に乗る人にも高齢者の割合が増加するだろう。

 もちろん、全ての高齢者ドライバーが運転能力に支障をきたしているわけではない。ただ、私が帰郷して自動車を運転すると、以前と比べて高齢者が平気で車道にはみ出してくる光景に出くわすことが多くなったように感じられる。また、信号待ちをしていると、前に停車している高齢者ドライバーが運転する自動車が操作を間違えて、バックしてきたりする。

 このような状況を解決するためには、道路整備などインフラを整備すると同時に、持続的な足の確保を支えるシステムの構築がかかせない。ただし、現在までの交通政策では、インフラ整備が先行して、上ものに対する政策は後手にまわっているという「バランスの悪さ」を感じる。

 わが市で見られる光景は、高齢化と過疎化を同時に迎える数多くの地方の市町村で、以前にも増して、今後急速に社会問題化していくだろう。‐「持続的な足の確保を支えるシステムの構築」‐先行研究でも数多く考察が加えられているが、道路経済を研究する末端である私としても、見過ごせない課題である。
   著者プロフィール
 後藤 孝夫
 (ごとう たかお)
 後藤孝夫


経歴

2000年3月 慶應義塾大学商学部卒業
2006年3月 慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学
2006年4月 九州産業大学商学部専任講師、現在に至る

受賞歴

道路と交通論文賞(2006年)

主な論文

「一般道路整備における財源の地域間配分の構造とその要因分析-都道府県管理の一般道路整備を中心に-」『高速道路と自動車』48号12巻、25-33頁、2005年12月
「中山間地域における一般道路整備に関する研究−1.5車線的道路整備導入の意思決定過程の分析を中心に−」『公益事業研究』第57巻第2号、95-104頁、2005年10月


道経研ウェブサイトに戻る

©Institute of Highway Economics. All rights reserved. <webmaster@ins-hwy-eco.or.jp>