017 空の「みち」の話 −航空路と滑走路のこと− 2007年5月
国土交通省国土交通政策研究所主任研究官 小島克巳

 今回原稿執筆を依頼され、さて何を書こうかと思案したのですが、もともと私自身が航空会社に勤務していたこともあり、今回はちょっと趣向を変えて、空の「みち」である「航空路」と「滑走路」にまつわる話をしてみたいと思います。

航空路のこと

 交通論で教えられるように、航空では通路インフラとしての「みち」は存在しません。しかしながら、航空機が飛ぶ経路としての「みち」は存在します。これは一般の道路と違ってまったく目に見えないものですが、一定の幅と高度を持っています。機内誌の最後の方のページにある航空路線図をご覧になったことがある人も多いことでしょう。日本地図上に網の目のように描かれたあの一本一本の線が、まさに航空機が飛ぶ「みち」なのです。少し専門的になりますが、それぞれの線は航空保安無線施設のある地点を結んだ線になっています。それらの地点を次々と経由しながら、航空機は目的地に向かって航行します。パイロットが持っている実際の航空路図(ルートマップ)には区間ごとに英字と数字の組み合わせで固有のルート番号が付けられていますから、その点では一般の道路と同様です。

 さて、皆さんにとって航空路の楽しみと言えば、まさに上空からの美しい風景を楽しむことだと思います。羽田から西へ向かえば左下に富士山を頂上から俯瞰することができますし、北に向かえば、下北半島を過ぎると北海道の荒涼とした海岸線を眼下に見ることができます。日本アルプスの山々を縦断する小松行きの便もお薦めです。反対に、西日本から羽田へ来るときには、左手に瀬戸内海、駿河湾、相模湾の海岸線を眺めることができます。

 一般の道路でも素晴らしい風景を堪能できるルートがあります。北海道などの国道は風光明媚な場所を通っているので、ドライブの途中でちょっと車を止めて風景を眺めるのもいいものです。航空機ではさすがに途中で立ち寄るということはできませんが、普段は行けない空の上から地上を見渡して、日本の国土の美しさを再発見する人も多いのではないでしょうか。

滑走路のこと

 次はもうひとつの空のみち、といっても地上にある滑走路の話です。こちらは航空路と違ってターミナルのインフラとして存在しますし、誘導路も含めて航空機が実際に通る通路ですから、一般の道路と同じように標識もあります。ただし、走行に際しては管制塔からの指示を受けますので、自動車教習所の無線教習のような感じといえばわかりやすいでしょうか。

 ここでは滑走路に書かれている数字の話をしたいと思います。滑走路の端には2桁の数字が大きく書かれています。この2桁の数字は滑走路が向いている方角を示しています。東西南北をひとつの円として考えると、真北が360°、真東が90°、真南が180°、真西が270°となります。この方位の1の位を省略した数字が書かれているのです。たとえば南北に伸びる滑走路でしたら、それぞれの方向から進入する航空機から視認できるように、南端には北側を上にして「36」、北端には南側を上にして「18」と書かれているわけです。

 羽田空港のように平行する滑走路がある場合には左(Left)と右(Right)で区別しています。羽田の平行滑走路はほぼ南北に伸びており、北は340°、南は160°の方角を向いています。ですから、南側から見ると、左(内陸)側のA滑走路の端には「34L」、右(海)側のC滑走路の端には「34R」と書かれています。同様に、北側から見ると内陸側のA滑走路の端には「16R」、海側のC滑走路の端には「16L」と書かれています。

 地方空港では滑走路上を端まで走行して、そこでUターンして離陸するケースがよくあります。このとき座席によっては機内からこの数字を見ることができます。この数字を見れば、滑走路の方角やこれから航空機がどちらの方向に離陸するのかが瞬時に判断できます。これも空のみちのひとつの楽しみ方ではないでしょうか。

 ところで、航空機がどちらの方角から離着陸するかは風向きによります。一般的には向かい風となる方向に向かって航空機は離着陸しますので、1日のうちに離着陸する方角が変わることはよくあります。羽田へ着陸する場合、北風ならば木更津上空からアクアラインに沿って「34L」に着陸、南風のときにはディズニーランドを右に見ながら、お台場の手前で大きく左旋回し、大井埠頭をかすめて「16L」に着陸することが多いようです。

 着陸後は誘導路を走行して指定されたスポットに向かいます。誘導路上にもセンターライン、一時停止標識、個々の誘導路の番号を示す標識など一般の道路と同じような標識があります。これは余談ですが、航空機が誘導路を地上走行する場合、操縦桿を左右に回しても車輪の向きは変わりません。別の小さなハンドル装置があって、それを使って誘導路を走行していきます。動力は空中と同様ジェットエンジンですが、もちろん出力は大幅に絞っています。

 以上、たわいない話を書きましたが、お読みになられた皆さんが少しでも空の「みち」に関心を持っていただけたならば幸いです。ぜひ楽しい空の旅を!

   著者プロフィール
 小島克巳
 (こじま かつみ)

 小島克巳氏



経歴
1987年3月 慶應義塾大学商学部卒業
1987年4月 (株)日本エアシステム(現 日本航空)勤務
2006年3月 慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学、
(財)道路経済研究所研究員、芝浦工業大学・日本大学非常勤講師、
2007年4月 国土交通省国土交通政策研究所主任研究官、現在に至る

受賞歴

主な論文
『交通の産業連関分析』日本評論社、2006年(共著)
.「観光客誘致は誰が担うべきか? 〜宮崎観光における交通の役割の再考〜」『交通学研究/2005年研究年報』、2006年(共著)
「ローマ水道にみる「公」の役割」『国際交通安全学会誌』 第30巻第1号、2005年
.「航空市場における待ち時間の最適化について −運航便数と機材キャパシティからの一考察−」『公益事業研究』第55巻第2号、2003年


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